「……エニシさまあ!こいつに引っ掻かれました!」
それはトイレを借りにいったはずの小鞠。その顔や手には真新しい引っ掻き傷があって、その犯人の首元を右手で掴んでいた。
〝猫〟は「ニャアア!」とイヤそうに鳴いて、小鞠の手から逃げていく。
「お手洗いの小窓から急に襲われたんです!」
「不審者に見えたんじゃね?どんまい」
「うう……」
小窓は手鏡で自分の顔を確認して涙目になっていた。
「この家で飼ってる猫か?」
猫は居間と繋がる縁側に移動して、警戒するようにジッとこっちを見ている。
「違うわ。たまにこうして迷い混んでくるのよ」
「へえ」
「なつかれても困るからエサはあげないようにしてるんだけどね」
つまり野良猫か。まだ遠くからこっちを見ている猫に近づいて俺は手を出した。
「おいで」
動物が好きなわけじゃない。ただフラフラとしてるヤツを見るとなんだか無性に構いたくなるだけ。
「あ、エニシさま!私というものがありながらそいつを手懐ける気ですか?」
「お前を飼った覚えはねーよ」
なぜか芽生える小鞠の対抗心は無視するとして。猫はそっと鼻先を俺の指へと付けた。



