やっとの思いで着いたのは住宅街から離れた一戸建ての古民家。ふう、と俺は八重を玄関で下ろすとそのまま小鞠と家へ上がらせてもらうことになった。
「本当にごめんなさいね。エニシさまは冷たい麦茶がいいかしら?」
八重はそう言ってテーブルの上に麦茶を置いた。そして俺はカラカラだった喉を一気に潤した。
「ここにひとりで住んでるのか?」
「ええ、そうよ」
ひとり暮らしには広すぎるほどの家。俺たちがいる客室の居間も仕切られている襖を開ければ宴会ができてしまうほど。
「じゃ、早速だけど〝これ〟は単なる書き忘れか?」
俺が出したのは掛け所に掛けられていた裏絵馬。
そこには依頼者である君島八重の名前とあとひとつ。縁切りしてほしい相手の名前は空白のままだった。
「ちゃんと書かないと依頼は受けない。そういう決まりだから」
それは俺が作ったルール。
縁切りをしたいほどの相手ということは、それほどまでに深い関わりがあったということ。他人に対してじゃ生まれない感情。
だからこそ、相手の名前を正しくフルネームで書きながら自問自答する。本当に本当に縁切りしてもいいのか、と。



