そしてホテルを出てそこにいたタクシーに手を挙げる。


「えっ!?いやあの、困ります」


本気で抜け出して席を外す気だ。私を乗せようと促したとき。


「失礼」


ドアのガラスを後ろから誰かが掴んだ。


「ま、松嶋、さん??」


平静を装っているけれど、急いで出てきて髪が少し乱れ、息を切らせている。


どことなく怒りを抑えたようにも見えたその表情に、妙にキュンとしてしまった。


「勝手に連れ出されては困りますよ。取引先のお嬢さんを」

「あなたには関係ないでしょう!?」


ムッとする工藤さん。
秘かに火花が散っている???
そんな訳ないか。


「取り引き辞めても構いませんよ??他に取り次ぎも出版社もありますし。うちくらいの大手なら出荷が減ると痛いんじゃないんですか??」

「あなた一人の判断でそんなことができるんですか??」

「仮にも主任を務めさせて頂いてます。影響力はある方ですが」


負けじと微笑む松嶋さん。
案外強い。