「じ、じゃあ………………「松永」。」
俺はやっぱり、恥ずかしくて下の名前で呼ぶのをやめた。
「苗字じゃん!」
「別にいいだろっ!」
「〜〜〜っ」
不満そうな色葉。
「じゃあ、私は「大地」って呼ぶ。」
「はっ!?」
色葉は急に切り替えたような表情をしたかと思えば、とんでもないことを言い出した。
俺は、「大地くん」とは言われたことはあるけど、
「大地」なんて、女に呼び捨てで呼ばれたことなんかない。
そりゃあ、男には呼び捨てにされることはあっても、女には……。
「だって!ずっと苗字で呼びあってたら距離あるじゃんっ!せっかく友達になれたのに!」
「名前の呼び方くらいで距離なんか変わんねーだろ……」
「〜〜〜っ」
“友達”……。
その言葉に嬉しく思いながらも、俺は少し冷たく返してしまう。
色葉はやっぱり、少しだけ不満そうな顔をする。
俺だって、呼びたくないわけじゃない。
はじめてだから、しかたないんだ……。
許してくれ……。
「でも、俺のことは……「大地」でいい。」
「ほんと!?」
「あぁ」
俺がそう言うと、色葉の表情は急に明るくなって、嬉しそうな顔をした。
「やった〜っ!私たちの友達レベルアップだね!」
「なんだそれ」
元気にはしゃいでいる色葉を見て、俺はなんだか微笑ましく思えた。
それと同時に、嬉しい感情が湧き上がってきた。
色葉だけだよ、俺のことを「友達」って呼んでくれる人は……。


