「風が冷たいね、車に戻ろうか」
「……待って」

踵を返しかけた僕を彼女は止めた。

振り返ると今にも泣きそうな顔をしていて僕から視線を逸らす。

「ヒトシくん。今までありがとう」
「え……?」
「他に好きな人いるんでしょ?」

顔を上げた彼女は涙をボロボロとこぼしていた。

「そんな、そんな」
「私がなんにも気づいてないと思う?」

僕が首を横に振り、否定しようとするのをぴしゃりとさえぎる。
二の句が継げない。


「駅に戻ろうか」

返事をきかずに彼女は車に向かっていく。


「僕は別れたくない、だって好きだから」

歩みをとめ、こちらを振り返る彼女。
困ったような顔をしている。

「私も好きだからずっと迷ってたの。でも、会うたびにヒトシくんの私への気持ちは確実に小さくなっていくのを感じてた。メールとか電話でもよかったんだけど、この景色をヒトシくんと最後にもう一度だけ見たくって。ヒトシくん、バイバイ」

”バイバイ”

――その言葉に込められた意味が胸をしめつける。