「……なに?」
驚いたことに、めんどくさそうに出てきた彼はきちんと身なりを整えていた。
飲み会の翌日の午前中に、会社で見るようなよそいきの姿をした彼を見たのは初めてだった。
「今から愛川さんが来るんだ。用事ならここできくから、すぐに帰ってほしい」
驚いて言葉を発することが出来ず立ちすくんでいた私に、彼は追い討ちをかけてきた。
きっと鬼の形相でインターフォンを連打していた。
ここに到着するまでに言ってやろうと思っていたことはたくさんあった。
だけど、なにひとつ言えず。
「なにもないならもう帰ってくれるかな?……もう俺とは関わらないでほしい」
――モウ俺トハ関ワラナイデホシイ
――モウ俺トハ関ワラナイデホシイ
――モウ俺トハ関ワラナイデホシイ
ねぇ、それが愛し合っていた私に言う台詞?
ねぇ、私たちは結婚まで誓った恋人同士じゃなかったの?
ねぇ、全部嘘だったの?