彼はうつむいたまま。
表情は無に近く、どういう想いを抱いているのかまったく見当がつかない。

でもまさか、私から殺されるなんて夢にも思っていないでしょうね。
せいぜい、言い訳じみたことを考えているのかもしれないわ。

「ごめん」?
「これにはワケがあって」?

そんな言葉でも吐くのかしらね。


私はロウソクを7本ケーキにさし、ライターで火を点す。

「ハッピバースデーツーユー、ハッピバースデーツーユー。ハッピバースデーディア蒼。ハッピバースデイツーユー」

パチパチパチパチ。私だけ拍手をする。

蒼と社長令嬢との婚約をきかされたあの日のことが思い出されて屈辱がよみがえってくる。

でも、もうそんな侮辱に涙するのはおしまい。


炎がゆらゆらゆらゆら揺らめいている。

「さ、吹いて」

そう促され、彼はふーっと息を吹きかけて火を消した。

「おめでとう!」

彼は相変わらずうつむいたまま。


ねぇ、蒼。
死神がロウソクの寿命を握っているの。
あなたの命の灯火はもうすぐ消されるのよ。