それから桜姉は担架で運ばれてきた
「先生! どうでしたか?」
「手はつくしたんですが、もう今生きている
だけで奇跡なくらいです」
「え………」
「次にいつ目が覚めるかわかりません」

そう言って出ていった立花先生
無言のまま立ちすくむ
「桜、急にどうしたのよ
昨日まで、あんなに、元気だったじゃない」
「なんで、うちの娘がこんなに
不幸にならなきゃいけないんだ」
父さんと母さんがたくさんの管に繋がれた
桜姉を見つめる

「樹兄、桜姉はどうして、こんなにも
辛い思いをしなくちゃいけないんだろう」
「桜は今生きてて辛いのかな
兄として、家族として今何が
出来るんだろう」

一定の間隔で刻まれる電子音
きっとこれからは体につながれている管が
桜姉の命を繋ぎ
この一定の音が桜姉が生きてると
伝えてくれるんだ


「桜姉は今まで生きてて、楽しかったのかな」


きっと俺が桜姉の人生だったら楽しくないと
思う
何もかもうまくいかない人生なんて嫌だ
自分が辛い思いをする人生なんて嫌だ
だけど、やっぱり桜姉は今の人生が
最高に幸せだと言いそうだ

「桜姉、」




結局、蛍さんと、九ノ瀬さんは呼ばなかった
来てくれてから教えればいい
実際見て見ないと、どんな状態なのか
どれだけ悪いかなんて分からないから


「桜、明日も来るからな」
「あまり、寝すぎないようにね」
「早く起きるんだぞ」



「桜姉、おやすみなさい」



明日にはまだ音が鳴っているだろうか
周りの人からしたら部屋でひとりでに
鳴っている電子音は絶望で
しかないかもしれない
そりゃあ、大切な人がいつ死ぬか
わからない状態だから
だけど、俺たちにとってはその電子音でさえも
希望になるんだな
あの音が鳴り続けている限り桜姉が
死ぬことはない
いつ止んでしまうか分からない音に
何を願おうか




病院の外は、俺達の心の中とは反対で
雲一つない綺麗な夜空だった