一之瀬さんちの家政婦君


美味しいコーヒーを飲みながら、好きな本を読む時間は昔から至福の時間だった。

誰にも邪魔されず、ゆっくりと時が流れていく。

図書館で借りた小説の第三章を読み終わった頃、店のシンボルでもある鳩時計が十六時を知らせる。

「もう、こんな時間……」

飛鳥は鳩時計を見て、慌てて小説を閉じた。

そろそろ帰らなければ夕飯に間に合わない。

「喜島さん、そろそろお会計をお願いします」

飛鳥が声を掛けると、店の奥から「はい、はーい」と軽い返事がやってくる。

店の奥から姿を見せた櫂人に伝票を渡すと、年季の入ったレジが清算の音を立てた。

「今日のコーヒーもとても美味しかったです」

飛鳥は機嫌良さそうに感想を告げて、代金を支払った。

「ありがとうございます」

それに合わせて櫂人も丁寧に礼を言う。

まるで、珈琲店の立派なマスターだ。

代理にしておくには勿体ないと飛鳥は密かに感じていた。