〜結萌side〜


「結萌、行くよ。」

毎朝、学校に行く前に迎えに来てくれる彼は深堀 耀矢(ふかぼり ようや)。保育園の頃からの幼なじみ。お母さんから「ようくんと、双子みたいね」ってよく言われる。
私は庵野苑 結萌(あんのおん ゆめ)。ここら辺の旧家の娘。

「ようちゃん、おはよ。」
「ようちゃんって呼ばないでよ。」

恥ずかしそうにそっぽを向いて手を差し出してくる。そんな彼を見て微笑んで、その手をとった。
病気持ちの耀矢はよく学校を休んでた。中学の頃までは。しかし、高校に上がると単位を取らなきゃって言って休むことが少なくなった。

「よう、体は平気?少し手熱いよ?」
「平気だよ。」

その時に彼の体の異変に気づいておくべきだった。

「そっか、今日、暑いね。」
「うん。」

いつも、口数が少ない彼。

「結萌、明日暇?」

急に声をかけてくる耀矢。少し驚いた。

「ん?明日?どうだろ、どうして?」
「明日病院。その後水族館行こーよ。」

毎週土曜日の午前中は耀矢の定期検診。

「いいよ。夏夢(なつめ)には言っておくから。」
「やった。ありがと。」

優しく微笑む彼の笑顔が私は好きで彼をそんな笑顔にさせたくなる。

「ねぇ、結萌。」

急に寂しそうな悲しそうになる彼の声音。

「なぁに?耀矢。」
「やっぱなんでもない。早く行こ?」

走れない彼は少し急ぎ足で私の前を歩く。

「うん。ゆっくりのんびり行こうよ。まだ時間はたっぷりあるんだし。」

そう言って私は彼の手を少し引く。そうすると彼は私に合わせてのんびり歩くから。
こういう彼との登下校はほんと幸せな気持ちになる。