四月初めの週末、毎年恒例のお花見が行われた。


 一応、桜の木の下で行われるが、みんな花よりお酒だ。


 社長も自ら、お酒を持参し皆に振る舞っている。
 しかし、噂によると社長と副社長の中は険悪らしく、社員達も気を使っているのが分かる。


 私は、朝から酒やツマミの準備に追われ、やっと、座った時には正直クタクタだった。

 目の前に出された冷たいビールが喉に染み渡り一気に飲み干した。

 気付くと、副社長が隣に座っていた。


「おいしい?」

「えっ! はい」

 私は恥ずかしくて副社長から目を逸らした。


「そんなに緊張しなくていいのに……」


「いえ、でも副社長ですから…」


 私がそういうと、副社長はクシャッとした顔で笑い出した。

 そして、私の頭を軽くポンと叩くと、私の手の上におつまみの柿ピーを乗せた。


「ありがとうございます」


「いえいえ、どういたしまして」

 私は、柿ピーの袋を開け、一つ口に入れた。

 副社長も私の手から一つ取り口に入れた。

「飯山さんて、彼氏いるの?」

 副社長の突然の質問に、戸惑ってしまい何処を見てよいかも分からない。


「いいえ、今は居ません。少し前に別れました」


「へえ―。どうして別れたの?」


「う―ん。自然消滅かな……」


「こんなに可愛いのにもったいない……」

 私は副社長の言葉に顔が熱くなった。


 副社長は又、私の頭を軽く叩いた。



 幹事の声に、社長の挨拶が始まった。
 軽く笑いを交えながらの、社員への思いやりが出た言葉に、皆の顔も緩んでいた。

 しかし、チラッと目を向けた副社長の顔は冷たく、苛立ちさえ見えた。


 その顔が、副社長が秘めた裏の顔である事など、私はまだ知らなかった。