彼女は少し、皆から離れた場所へと歩いて行った。

 私も彼女の後に続いた。



「やはり、思った通り可愛らしい方ね…… そのワンピース高いんでしょ? とっても似合っているわ」

 これは、絶対嫌みだよね……


「あ、ありがとうございます」


 私は何と言っていいのか分からなかった。


 彼女は、変わらないあの笑顔を私に見せた。


「主人の事だけど……  あなたに差し上げるわ」


「えっ?」


 私は耳を疑った。


 普通は主人から手を引いてとかじゃないの?


「突然ごめんなさいね。お会いした時に言わなければと思って……」


「い、いえ。そう言われましても……」


 私は完璧にパニックになっている。



「私、何か変な事、言っているのかしら?」


「た、多分……」


 彼女はため息を着いた。


「私、もう主人いらないのよ。もう、うんざり」

 彼女は眉間に皺を寄せ、少し疲れた表情になった。


「えっ。そんな……」


「この後、最悪なのが見え見え…… お父様の悪口からはじまり。自分の立場が無いだとか、しまいには、私が下請けの方達と話をしたのが悪い。皆に愛想を振りまいたのが悪い。俺をバカにした。俺より高い時計を持ってた奴がいた。まあ、そんなところかな……」

 彼女は淡々と話した。

「……」
 私はなんと言ったらいいのかわからない……


「今夜はあなたの所へ行くと思うけど、後よろしくね」


「えっ……」


「お願い…… 貰って……」

 彼女の目は冗談を言っているようには見えなかった。


 うっそ―。

 訳が分からない。


 気のせいか、彼女は少し足取り軽く、笑顔で皆の中へ入って行った。


 私は、頭の中が何も回らず動けなかった。