「大勢での飲み会とか苦手なんです。サラダの取り分けとかお酌とか出来ませんし、お酒も大して飲めないですし。遠慮します!」

キリッと眉を上げ、ハッキリと断った。
しかし武田さん鼻で笑う。

「何を言っているんだ。高畑にそんなもの期待していない。参加することに意義があるんだ」

「……お、お金も余裕ありませんし!」

負けるな私! 令和に生きる女!

しかし、完全にあちらの方が一枚上手だった。

「ああ。それなら気にするな、お前と新入社員は一銭も出さなくて良い」

「あのー、もしや私も新人の枠に入ってます?」

それはそれで、なんだか腑に落ちない。
本当の新人2人は私達の言い合いをポカンと口を開けて見ている。
 
「思い返せば、高畑がうちの部署に来てから、歓迎会を開いていなかったからな」

「はぁ……確かにそうですけど 」

まぁ他の部署にいたときも歓迎会なんて開かれたことなかったけど。
そう。今までどこからも、誰からも、歓迎されたことなんてなかった。

「赤提灯は料理が旨い店だぞ。特にだし巻きと、スジこんが絶品だ」

だし巻き……すじこん……!?
うーん。まぁ、財布を出さなくてよいのなら行ってやってもいいか。晩御飯代が浮くならお得だし……と、脳内で損得勘定をしているうちに

「そうだな、19時半に寮まで迎えに行ってやろう。用意しておくように」

と、私が答えを弾き出す前に、強引に話をまとめられてしまった。

「は、はぃ……」

負けた。ガックリと肩を落としながら、時計を見る。定時まであと1時間……。急にやる気が削がれる。

まんまとタダ飯に釣られてしまった。しかも私がバックレることを想定してか、ご丁寧に送迎付きだ。
「寝落ちしちゃいました!てへっ」の作戦も一瞬考えたけども、すぐに無理だと悟る。

まざまざと蘇る記憶……。
夜中におかしな客に呼びつけられ、武田さんがうちに訪ねてきたあの日。
真夜中に鳴り響くインターフォンの嵐。ドアが凹むほどのノックの連打。怖かった。あれは怖かった。
居留守を使おうものなら、同じ悲劇が起こってしまうだろう。

もうあの人から逃げられる気がしない。

あとから新人の奥田にコソっと「高畑さん、武田さん相手に口ごたえ出来るなんてすげぇっすね!」と言われたけれど、何がすごいのか意味がわからない。そしてもう1人の新人澤井さんは、私と目を合わせてくれようともしなかった。