翌日のことだった。

18時きっかり。
仕事を終わらして(途中で放棄して)帰ろうとしていたとき、事務所中に武田さんの声が轟いた。

「なんだと!?」

武田さんは内線で、何やら深刻そうな顔をしながら話している。
私はなんとなく“またやらかしたかな”と予感した。


「--そうか、あぁ、申し訳ない。すぐに謝りに伺う」

内線を切った武田さんは、おっかない顔で私を睨んだ。


「高畑。昨日お前が対応した田中様、覚えているか」

予感は的中。
瞬時に「覚えてません」と答えかけたが、思いとどまった。

「おぼ……えてます!武田さんが、途中から横取りしたお客さんですよね!」

武田さんは『横取り』という単語に眉を顰めるが、それどころでは無いらしい。

「アレルギーの件、聞いていたか」

「アレルギー?……あー、なんかお子様に卵アレルギーがあるって言ってたような……」

「馬鹿野郎!! 何故それをレストランに伝えなかった!!」

「え、だって、卵料理なんて、お子様プレートにはなかったですし……」


なぜ怒られているのか分からない私は、ふて腐れ気味で、レストランのメニュー表を取り出す。
お子様メニューには、卵焼きも、目玉焼きも、卵かけご飯も、卵料理なんて1つも載ってない。


武田さんは、「たわけが!」と怒鳴り声を上げながらこちらにやってきて、私の手にあるメニュー表を勢い良く指差す。

「ハンバーグ! エビフライ! ウィンナー! 全て卵が含まれている!!!」

「そんなの! 書いてないから分からないです!」

私も負けじと言い返す。

「分からなければ訊け。勝手に判断するな! ほら、お客様に謝罪しにいくぞ!!」

武田さんに勢い良く腕を引っ張られ、私はほとんど椅子から転げ落ちた。

「えぇ~。私、もう上がり時間なんですけど……」

思ったままを口にしたら、殺人鬼のような形相で睨まれたので、私は大人しく引きずられることにした。