「ねぇお母さん、このモヤの人は彰なんでしょう?」


「梢……あんた、思い出したの?」


お母さんの目が大きく見開かれる。


あたしは小さく頷いた。


本当はなにもわからないままだったけれど、嘘をついたのだ。


けれどその瞬間、お母さんの口がわなないた。


なにかを爆発させるようにあたしの両肩を掴む。


その力があまりにも強くて、あたしは驚いてお母さんを見た。


「大丈夫よ、きっとあんたは大丈夫だから!」


「大丈夫って? それってどういう意味? ねぇ、お母さんは一体何を知っているの?」


そう聞くと、お母さんは視線を泳がせ、やがて諦めたようにため息を吐き出した。


「話をしてあげるから、リビングへ行きましょう」


そう言って先を歩くお母さんの背中は小さく震えていたのだった。