「グリフィス?・・・・これを食べろと言ってるの?・・・・信じられない!!」


グリフィスの頬を叩く小気味良い音が響いた。
結衣よりも背の高いグリイフィスの頬を、顔を真っ赤にした結衣が引っ叩いた。
そしてドアを思いっきり閉じて、グリフィスを部屋から追い出した。

「・・・すまん」
閉じたドアの前で、頬に真っ赤な小さな手形を付けたグリフィスは呟いていた。

何がいけなかったのだろうか?
訳も分からず謝る。
その方がいい時もある・・・・前世の小太郎が教えてくれる。

真っ青な顔をして弱々しく腹が痛いと言ったから、すぐに死んでばかりの、でろん!でろん!のヤモリを食えと結衣の口元まで持って行ったのがいけなかったのか?
確かに見た目はグロテスクで味は保証できないが、腹痛の時はとてもよく効く薬なんだ、結衣にそのことを言わずに口の中に放り込もうとしたのはやっぱり良くなかったようだ。

「・・・結衣!このヤモリは薬だ・・・だから食べたほうがいい・・・食感はカエルで、味はミミズを生で口の中に入れた様な泥臭さがあるが、腹痛にはこれ以上の薬は無い・・・だから・・・」

「い・ら・な・い!!」
「・・・でも・・・腹が痛いになら食べたほうがいい」
「いらないってば!しつこい!グリフィス!!それに薬なら、この宿の女将さんに頼んだからグリフィスはもう来ないで!あっちへ行って!」

「・・・そうはいかない、具合が悪いんだったらなおさら俺は結衣から離れるわけにはいかない・・・それに部屋から血の匂いがする、結衣何処かけがをしたのか?入るぞ」
ドアを開けた瞬間、枕が飛んできたが反射神経が良いので簡単に枕をかわして、結衣のベッドまで来た俺は凝愕した。ベッドが血だらけで、結衣が目に涙をためてこちらを睨んでいた。

「怪我は何処だ、早く治療しないと・・・結衣なぜ黙っていた!誰にやられた!!」
結衣に怪我を負わせた奴は、どんな事をしても絶対に探し出して償わせてやる。
そんな俺の表情を読み取ったのか結衣は半分泣いていた。
「泣いていては分らない、誰に刺された、それから怪我をした所を見せろ、治癒魔法で直してやる、ほら見せろ」
結衣の服を引っ張り切れている所が無いかくまなく探すが、何処も切れていない・・・後は足だけだと、結衣の足を持ち上げたら、結衣に悲鳴を上げられ、それを聞きつけた宿の女将にフライパンで殴られた。
「出ておいき、このド変態!!」

結衣の悲鳴に、ただただ茫然としていた。
なぜ、悲鳴をあげる必要がある?
治癒魔法の何がいけない?

結衣は宿の女将のパンダの獣人に抱き着いて泣いていた。

俺がいけないのか?
「だが結衣、ベッドが血だらけだぞ」
「アノ日だよ!唐変木!よしよし、泣くでないよ」
女将は俺を怒鳴りつけると、結衣には頭を撫でて可哀想にと抱きしめていた。

だが、俺にはさっぱり判らなかった。

「アノ日って?」
ポツリと呟いたのがいけなかったのか、結衣と女将が一斉に俺を睨んだ。

「この子が着替えるんだから、早く出ておいき」
女将の手から今度はフライパンが飛んできたが、顔に当たる前に片手でそのフライパンを受け止めた。

「・・・出て行けばいいのか?結衣!」

結衣はコクリと頷いたので、俺は素直に部屋を出て行った。

フライパンをもって部屋の外で待つこと30分、女将が出てきて俺の耳元で囁いた。
「あんた、人の子を嫁にするのは構わないけど、もう少しあの子の体の事を考えておやりな」
「・・・結衣の体に何かあったのか?」俺は驚いた。具合が悪いだけじゃなく、何処か病気ににでもかかっているのだろうか?
「そうじゃないよ、#唐変木あの子は、生理中だよ」
「ああそうか?だから、足の付け根から血が出ていたのか」
「あんた、絶対にそんな事!あの子の前で言うんじゃないよ、本当に嫌われるよ」
女将はため息をついて、俺からフライパンをもぎ取っていった。

「後これは忠告だけど、あと、2~3日はここに泊まらせてあげな、結構な出血だったから、隣り町まで体力がもたないと思うよ」
階段を降りる直前に女将は言った。

「・・・ああ分った。2~3日は厄介になる」
「毎度」
と言って女将は階段を降りて行った。

部屋に入ると、薬が効いてきたのか、結衣は安らかな寝息をたててねむっていた。

「本当に心配したんだぞ結衣・・・でも何でも無くて良かった」
ユックリと頭を撫でると、俺の目線が結衣のペンダントに止まった。
結衣の胸元には壊れた犬笛のペンダントがあった。これは前世の小太郎と結衣の友情の証だった。

「俺が死んだのにまだ着けていたのか結衣」

胸の奥が締め付けられる。