よしっ。
小さく溜め息をついたあと、笑顔を作ったその時。
視線の先、フロントのはしっこのソファーに武田くんがいるのを見つけた。
帰ったんじゃなかったんだ。
せっかく作った笑顔も曇ってしまう。
っていうか。
中に入らないなら、さっさと帰ればいいのにって思ってしまう。
気づかないフリをしたいけど、私の性格上どうしようもない。
「武田くん、残ってたんだ」
できるだけ笑いながら声を掛ける。
「坂野(サカノ)」
武田くんはハッとして顔を上げると私の名前を呼んだ。
そういえば、苦手な理由がもうひとつあった。
それはサークル内で私のことを唯一苗字で呼ぶこと。
なんだか妙な距離感を感じて、近寄りがたく感じてしまう。

