青野君の犬になりたい

マップを頼りに来た道を戻って、何度か道を折れて、7センチのヒールで歩いて歩いて、『波波』に到着したときにはさらに20分はたっていた。
「疲れた。まさかこんなに歩かされるなんて」
「その分、きっとビールが美味しいよ」
和紙で作られた美しいメニューをテーブルの脇に戻し、青野君が笑う。
私は運ばれてきたばかりの生ビールをごくごくごくと、一気に三分の一ほど飲んだ。
「はぁー」思わず感嘆の声を漏らす。
「ほら、美味しいでしょ」
枝豆が運ばれてくる。
鮮やかな緑で、ふっくらとした体からは白い湯気が上っている。
「お、茹でたて」と、青野君が嬉しそうに覗き込む。
「枝豆、好きだよね」
「うん」
「枝豆が好きで、犬が好き。私まだ青野君のこと、それくらいしか知らない」
「仕事ができるとか、優しいってことは?」
「あと3人も彼女がいるってことは知ってる」
「葉山さん入れて4人だよ。十分な情報量だ」
「そうね、私、末席の彼女だし」
自虐的に言ったつもりだけど、「そうそう」と青野君は意に介さない。