「それから、僕は変わりました。人に優しくしようと思ったんです。こっちが優しくなると、周りも変わって、従えてた友達も戻ってきました。それからいろんな友達ができました。男の子も女の子も。よく家にも遊びに行ったり、遊びに来てもらったり。母に友達が来ることを言い忘れていた時は、物凄く怒られました。母は、部屋が汚いのに人を呼ぶことを嫌っていたので。」
「潔癖症なの?」
「そういうわけじゃないんです。ただ、小さい子供って正直じゃないですか。家に帰って、夕飯を食べながら『健司くんの家、すっごく汚かった。』なんて会話もしているかもしれない。現に、僕が友達の家に遊びに行って、汚かった家、綺麗だった家は今でも覚えてますよ。階段に脱ぎ散らかった服が散乱してたりとか。」
あー、わかるかも。実家は二階建てで、上の部屋は私の部屋と妹の部屋がある。階段の下に洗濯物を投げて、それを母さんが拾って洗濯する。で、洗濯し終わったものを、畳んで階段に置いておけば、私はそれを抱えて自分の部屋に行く。階段の数段は、なぜか物置きになりがち。階段あるあるかもしれない。
「それで、小学校に入学して、更にいろんなことがわかってきます。自分のことなのに、自分にはこういうところがあるんだって。例えば、机の中に道具箱が入っていたでしょう? はさみとか、のりとか、そういうものが入った道具箱。僕の道具箱は、ぐちゃぐちゃでした。ぐしゃぐしゃに丸まったプリントやティッシュのゴミ、鉛筆削りのカスとか、飲み終わった牛乳パックなんてのも入ってました。」
「牛乳パック? それって汚いだけじゃなくて、臭くない?」
ピザがまずくなった。
「でも、あの時は気づかなかったんですよ。飲み干した牛乳パックを道具箱に入れたらどういうことになるかって。だって、道具箱を持たされる経験なんてなかったですし、自分の机を持つことも、学校の机と小学校に入って買ってもらった新品の学習机が一番最初でしたから。」
なるほど……。言われてみれば、人生で一番初めに与えられた自分の机は、学校の机か、学習机だった気がする。初めて与えられたものをどう使っていいかわからないのは、説明書の無いテレビゲームと同じかもしれない。いろんな失敗を繰り返しながら、学んでいくみたいな感じで、整理整頓をすることによって、自分のためにもなるし、気持ちもすっきりすることを学んだんだっけ。



