「僕は、広島で生まれました。」



私は飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。



「広島のどこ?」



「中区……だったと思います。大きな坂があって、その坂を近所に住む同い年の女の子と登っていた記憶があります。赤いバスと緑色のバスが走ってました。赤いバスは、カニカマボコみたいで、緑色のバスは、父が着ていたパジャマの色に近かったなって。どうでもいいことなんですけど、そういうことに限って意外と覚えているもんなんですね。」



中区。私と生まれが同じだった。確かにあった大きな坂。赤と緑のバスが走っていた。そして、偶然にも、家の近くに坂があって、その坂を向かいのアパートに住んでいた同い年くらいの男の子と登った記憶がある。幼稚園に入る前だから……。



「それっていくつくらいの時?」



「3歳か4歳か……幼稚園に入る前だったことははっきりと覚えています。というのも、幼稚園に入園する前に、父の転勤で、愛媛に行くことになるので。」



時期もぴったり合っている。でも、合っていないのは、私が一緒に坂を登ったのは、同い年くらいの男の子だ。彼は私よりも年上の23歳。私は19歳。4歳も離れているということは、私は生まれていないことになる。単なる偶然だろう。



「そして、愛媛の幼稚園に入りました。集団生活って言うんですかね? 幼稚園に入るまでは、公園で友達と遊んだりしたことがなかったので、どう人と接していいかわからなくて、僕はかなり自己中心的な態度を取っていたと思います。両端に友達を従えて、あれしろ、これしろってすごい口調で命令してました。すると、友達は『もう健司くんとは遊びたくない!』って言って、みんな逃げていきました。この時、僕は初めて孤独を味わいました。」



孤独の寂しさは、私にもわかる。孤独は麻薬だ。それも盗撮魔さえも愛してしまう、恐ろしいもの。