鎖骨を噛む






「押入れの中か?」



ムルソーさんと目が合った。バレてる完全にバレてる。もう観念するしかないか……。この感じだと、殺されることはないでしょ、さすがに。はあ、私ってやっぱバカ。



「……バレちゃいましたか?」



押入れを仕切ってるグリーンのカーテンを開けて、私はマイプライベートルームにいるムルソーさんの前に出た。脚がガクガク震える。怖いのと、胸のトキメキと、ほんの少しの不安がそうさせていた。



ムルソーさんはびっくりするくらい、冷静だった。私を見る目は、完全に冷めきっていて、怖い。軽蔑しているような、それか元々目つきが悪いだけなのか……。嫌悪に満ちている気がする。憤怒にも近い気がする。喜怒哀楽でいえば、完全に「怒」。



「はじめまして。ムルソーです。」



彼は、私の前にずいっと歩み寄ってきて、少し笑って、丁寧に頭を下げた。あの目は「怒」じゃなかったのかな?



かと思えば、豹変。「怒」。



「盗撮魔が盗撮している相手と出会ってしまった時、普通はどうなると思う?」



私は何も言えなくなった。まるで金縛りにあったみたい。声が出ない。まるで、金魚みたいに口がパクパク動くだけのマヌケ面。