「自分の鎖骨を? んー……。」



健司はシャツのボタンを2つ開けて、自分の鎖骨を噛もうと試みた。



「ダメ。無理だな。」



「でしょ? 鎖骨を噛むのって、独りじゃ無理なんだよね。私ね、ずっと自分が孤独だって思ってた。私は孤独だって思い込んで生きてきたの。孤独っていうのは、自分で自分の鎖骨を噛もうとするほど、惨めでもどかしいものなんじゃないかなって。でも、健司と出会って、もしかしたら私は独りじゃないんじゃないかって思えるようになったの。」



「……りさは、独りじゃないよ。オレがいるじゃん?」



「うん。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、私、性格悪いのかな? 疑り深いのかな? 言葉だけじゃ信じられないんだよね……。」



「まあ、わからなくもないかな……。」



そう言って、健司は私の胸元のスウェットをグッとずらして、顔を埋めた。



「え!? ちょ、ちょっと!?」



すると、鎖骨の辺りにギュッとした痛みが走った。



「ちょっと! 痛い! 痛いって!」



私は健司の頭を両手で持って、突き放した。そして、電気を点けた。



「何するの!?」



「鎖骨を噛んだ。」



「鎖骨を噛んだって……なんでそんなことするの?」



「鎖骨は自分で噛めないだろ? 独りだと鎖骨に歯形が付くことはまずない。でも、今、りさの鎖骨には歯形が付いている。これって独りじゃないって証じゃないか?」