ジグソーパズルが完成した時には、すっかり夜になっていて、二人でハイタッチをして喜びを分かち合った。まるで、二人で魔城に乗り込んで、世界を守り切った勇者のような気持ち。でも、ジグソーパズルは完成して終わりじゃない。
「このパラソルのとこ、意外と大変だったよね……。」
「あー、わかる! あと岩のところ!」
「でも、なんだかんだ言って、一番めんどくさかったのは、空の青と海の青だね。」
「なんかそんな曲なかったっけ? 『空の青、海の青』みたいなタイトルの曲。」
「若山牧水の歌にあったな。『白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ』。」
「へえー、詳しいね。」
「オレ、本読むのとか好きだからさ。」
「じゃあ、健司の中でこれは一番だって小説は?」
「『異邦人』。」
「『異邦人』?」
「アルベール・カミュの代表作だよ。」
「ふーん、なんだか難しそうな本だね……。」
きっと美大に通っていたくらいだから、海外小説みたいなものも好きなんだろうなと思う。私とは住む世界が違い過ぎる気がした。健司を遠く感じる。でも、好きな人が好きなものは、私も好きになりたい。
「今度、その本読んでみたいな。」
「今度、貸すよ。」
それからまた洗濯物の存在を忘れていたことに気づいた。もういい。また明日まとめてやろう。それよりもお腹が空いた。



