俺は途中、ちらりと時計を見た。
もうすぐ父さんとの約束の時間だ。
本来ならもう着いているはずである。
だが俺は反対方向へ向かっている。
もうどうしようもない、仕方ない。
まだ家族に対して執着している心が諦めだした。
「優さん、どうかされましたか?」
急に車に響く声に、俺はハッとした。
心配そうにこちらを見ているのが、バックミラーに映る。
「どうもしてないけど?」
「何かトラブルでもあったみたいな顔ですよ。」
「…何も問題ない。
空港にももうすぐ着く。
そうしたら、君はは自由だ。」
空港まで10分もかからない。
終わるんだ、そんな実感が押し寄せる。
なのに、だ。
「優さん、車を停めて下さい。」
急に彼女がそんな事を言い出した。
「は?
何言ってるの?」
「いいから、何処でもいいので停まって下さい。」



