彼女は本当に大人しく後ろを歩いている。


この子の性格を考えると、いきなり後ろから刺したりはしないだろうが、この静けさが奇妙でならなかった。


最上階から地下の駐車場へ行くと、同じ建物とは思えないくらいに暗い。


足音が妙に響くのを聞きながら、俺は後ろ向きに止めてある車のバックドアを開けて、彼女の荷物を乗せる。


それからお嬢様を車に乗せて、俺も運転席に乗り込んだ。


「大きな車ですね。」


「小さいと不便だからな。」


俺は暫くこの車で寝泊まりする事になるだろうから、あまり小さいと困るんだ。


そんな事は話さずに、俺は車のエンジンをかける。


独特の音と共に、バックで駐車スペースから出ると、俺は空港に向かって車を走らせた。


父さんとの約束のビルとは反対方向だ。


まだ明るい街中で、ビルの中から次々と人が出てくるのを視界に入れながら、俺は空港へ急いだ。


その間、彼女は一言も話さなかった。


バックミラー越しに表情を伺うと、彼女と目が合った。


彼女がニコリと微笑むと、俺はまた真っ直ぐに前を向いた。


どんな顔をしたらいいか、分からなかった。