俺はマンションの最上階へと向かう。
屋上には行った事があるが、最上階…あの子の家に行くのは初めてだった。
2階でエレベーターに乗ったが、最上階までは遠くて、なかなか辿り着けない。
その間も、俺はずっと考えていた。
あの子を車に乗せて、空港まで走って、見届けたら…そうだ、前に盗ったナンバープレートがあるから、途中からそれをつけて、何処まででもいいから逃げるか。
何処まで行けるか分からねえし、逃げ切れるか分からねえけど。
…あの子といなくなったら、父さんや海斗はどうするだろうか?
探しだすだろうか、諦めて榎本悟郎だけを殺して、放置されるか…後者の方がありがたいけど、無理だろうな。
特に海斗はダメだ、何処まででも探しに来る。
復讐とか関係なく、ただ探しに…
エレベーターが減速すると、鈍い音と共に扉が開く。
あの子の家まで距離があるわけでもなくて、すぐに彼女の家の前に立つ。
俺は深く息を吐いてから時計を見る。
約束の時間まであと2分…もういい時間だ。
俺は目の前のインターホンのボタンを押した。
低くて上品な音が響くと共に、玄関の扉が開いた。



