『父さんは何も気にする必要ねえよ。
首突っ込んだのは、俺の方だからな。
全部終わったら、また皆で飯食おうな。』


送信してから、俺は泣いているのに気が付いた。


…俺、こうやって家族さえ裏切る人間なんだなって、改めて自分自身に絶望した。


ごめんな、父さん。


でも俺…今は…本当の事言えねえんだ。


俺はもう一度顔を洗った。


水道水が妙に冷たくて、顔の熱がおさまる。


「…」


俺は鏡の中にいる自分に問うた。


今ならまだ間に合う。


榎本果穂は俺を信じ切っているみたいだし、騙して父さんのところに連れて行く事も出来る。


どうする?


家族か、女の子一人の命か…


ああ、やっぱりダメだな、俺。


あの子を父さんに引き渡すなんて、出来ねえわ。


あれでもあの子、必死に生きているんだ。


与えれれた窮屈な世界の中で、取り繕って、努力して…傍から見たら、滑稽で不器用なんだけど、その姿は…


何処からか、愛おしいって言葉が生まれた。