私は迷う事なく、父親の携帯電話を自室に持ち帰る。


それから部屋の角でイヤホンを装着し、何が起こったのかを聞いてみる。


約1時間の音声データに、私は声も出せなかった。


起こるはずもなかった事故の話を、電話をかけてきたダミ声の人と父親が話している。


雑音の多いデータではあったが、彼らが何を話しているのかはよく分かった。


爆弾の種類や数、使用日時、値段交渉…密度の濃い1時間だった。


聞き終えた後、私は暫く部屋の角に座り込んでしまった。


動けなかった。


偶発的な事故に、父親も悲しい思いをしたと思い込んでいた。


でもどうだろう。


自分で起こした事だ。


多くの人の命を奪っただけでも信じがたく、決して許す事は出来ない。


だが私が一番許せなかったのは、この会話だった。


「今ちょうど、妻が妊娠しておりまして、そこの病院に入院しているんですよ。」


「それなら、早く転院させないといけませんねえ。」


「いや、その必要はない。
事故の直前に転院させたら、怪しまれるでしょう。
被害者のフリをしないといけないのに。」


「奥様を見殺しに?」


「見殺しじゃありませんよ。
ただ、少し役に立ってもらうだけです。」