お母様がなくなって幾分と立ち、母親への恋しさを忘れかけていた頃だ。


私はその時、小学6年生で、中学受験の真っ只中だった。


あの頃は父親に対して、今のように恨みはなかったものの、決して仲が良かったわけではない。


逆に父親という存在を大して意識していなかった頃でもある。


それが一変したのは秋頃だった。


当時は戸建てに住んでいて、まだ家にお手伝いさん達がいた。


私の周りにはいつも誰かしらが傍にいたが、その時は夜も遅い時間で誰もいなかった。


深夜0時頃だったと記憶している。


私は眠っていたが、目が覚めてしまい、台所で水を飲もうとした。


部屋の電気はつけずに、廊下へと続くドアをそっと開ける。


もう中学も寝ているだろうから、煩くしないように慎重に廊下を歩こうとした。


でも廊下は明るかった。


使用人で起きている人がいるのかと思ったが、隣の部屋…父親の寝室から声が聞こえた。


廊下でも聞こえていた個とから察するに、怒鳴っていたのだと思う。


全てがハッキリ聞こえたわけではないが、「金なら払った」や「あの時の事故」、そして「こっちも妻を犠牲にした」という言葉が聞こえてきた。


お母様の話をしているのだと思った。


それでうっかり聞き耳を立ててしまった。