「そういえば、果穂。
お前の担任は新任らしいな。」
唐突に出てきた伊藤の存在に、私は少しだけ眉を動かす。
「担任の先生ですか?
ええ、本来担任になるはずの中村先生が交通事故に遭われて、今休職中なんです。
それで、新しく来た方が代理で担任をしておりますが…どうかされましたか?」
学校の事なんて全く関心がなかった父親の口から、伊藤の存在が出てきた。
そもそも、その話を何処で聞いたのか…取引先の娘なら水仙女子にうじゃうじゃいるけれど…
「若い男と聞いたが、頼りになるのか?」
「そうですね…頼りになるかは分かりませんが、良い先生だとは思いますよ。
教える事に関しては全く問題ないと思っています。」
父親が何を聞きたいのか分からないから、聞かれた事だけに答えていると、父親はそれ以上聞く気がないようで、そうかと短く返事をした。
でもそれだけでは私が納得できないから、もう一歩だけ踏み込んでみる。
「何か心配事でもおありですか?」
「いや…心配事という程ではないが…どうせ世間の事なんて殆ど分かっていない若造だろう。
担任なら進路の話もするだろうが、あまり耳を傾けるな。
お前のことだから、相談する事なんてないだろうがな。
どんな奴か知らないが…もし何かおかしな言動をしたら、報告しろ。」
「分かりました。
ご心配をおかけして申し訳ございません。
今のところですけれど、伊藤先生とは殆ど話す事がないんです。
学級委員をしてますから、事務的なお話をする事はありますけれど…。
なので、どんな人なのか、私にもよく分からないのです。」
「そうか。
分かった、もういい。
戻っていいぞ。」
「はい。
スープは飲み終わったら、部屋の前に置いて下さい。
明日の朝には洗うようにします。
それでは、失礼いたします。」
私はドアを閉めると、自分の部屋に真っすぐ帰る。
そして先程撮った写真をパソコンに転送して、プリントアウトする。
結構飲んでるのね…あれだけずっと働いていたら、普通の食事だけじゃ無理か。
それにしても…父親がアメリカに戻る日は延びそうね、最悪。



