そう、片足を浮かせて更に前へ動かしている、まさにその時だった。


「何してんだよ!」


初めて聞く人の声に、反射的に振り返る。


この時の事はよく覚えている。


血相変えた男の人が、こっちに向かって全速力で走ってきているの。


それで気が付いたら、腕を引っ張られて屋上に両足を着いていたの。


目の前にはその男の人が立っていた。


さっきまでとは違って、視界に入るのは男の人と真っ暗な空だった。


「え?あの…何か?」


自分でもすっとんきょうな第一声だったと思う。


こんな状況じゃなかったら、もっとまともな事が言えたんだけど。


「何かじゃねえよ。
何してんだよ。
ここの高さ分かってるか?
死にたいのか!?」


「あ、うん。
死ぬつもりだったんですけど。」


「何馬鹿な事言ってんだよ!
とりあえず下りるぞ。」