エレベーターでの伊藤の様子がおかしかった事は分かっていた。


何をしたかまでは分からないけど、伊藤は自分の家の鍵を見付けられないなんてマヌケな真似をする人ではない。


何かが仕掛けられたと核心した私は、父親が風呂に入っている間に部屋を調べた。


あの時屈んでいた事を考えれば、スーツのズボンか、靴下、靴…このあたりだろう。


そう思ったけど見付からないから、私は鞄を探った。


そうしたら、鞄の裏に小さな出っ張りを見付けた。


テープで止められているそれは、テラテラと光っていて、怪しいものであると主張している。


私はスマホでそれを撮影すると、鞄を元に戻して部屋を出ようとした。


だが、私がドアを開けるより先に、勝手にドアが開いた。


「何をしているんだ?
そこは私の部屋だぞ。」


目の前には風呂上がりの父親が立っていた。


大きな体のせいで、部屋から出たくても出られない。


「勝手に入ってごめんなさい。
探し物をしていたんです。
お父様にいただいた腕時計なんですけど、ちょうどこの部屋をお掃除した頃になくしてしまって、もしかしたらここじゃないかと…」


あの時計なら、私の机の奥底に閉まっている。


もう二度と使いたくないけど、捨てるわけにいかないから、目につかない所に置いたのだ。


それで咄嗟に嘘の材料にしたのだが、この父親は納得しなかったらしい。


「ならどうして私に言わないでやるんだ!
仕事の大事な資料だってあるんだぞ!
新しい物が欲しいなら何でも買ってやる。
だから許可を出した時以外、二度と部屋には入るな!」