隣の駅まで一緒に行こうかと思ったけど、娘に悪い虫が付いたって思われたら嫌だから、今日はこの辺でお別れしよう。


「そっか。
ごめん、俺こっちだから方向違うんだ。
送っていけなくごめん。」


「そんなのいいよ!
送ってもらうような距離じゃないし。
…今日はありがとう。
もし何処かで見かけたら、また声掛けてね。
バイバイ。」


花音ちゃんは笑顔で手を振って、駅に向かっていった。


俺はその後ろ姿が消えるのを確認してから、家に向かった。


もう空は真っ暗で、街中はギラギラと光っていた。


俺は花音ちゃんが向かった方と別の改札口を目指して歩いた。


今日は…いや、もう二度と会わない方がいいだろう。


貴久君の姿でいるのは息苦しいし、海斗だってバレたら面倒だし。


貴久君は、花音ちゃんの青春の1ページに留めておいてもらおう。


そう考えた時、先程の花音ちゃんの笑顔が目に浮かんだ。


無邪気に手を振る花音ちゃんは、俺にはない純粋さに満ち溢れていた。


もし何処かで見かけたら…か。


俺は考えるのを止めた。


本当の俺を花音ちゃんが見かけても、きっと分からないだろうな。


そのように振る舞ったので、分からなくて当然だ。


それでも少し寂しいような気もした俺は、やはりまだまだ若いのだろうか。