初めて兄さんの家に行った時の俺は、いつもの俺だ。


チャラさ全開というか、とにかくチャラかった。


でも今日は兄さんの家に行く対策で、黒髪のウィッグを付けて、制服っぽいものを着ている。


それも第一ボタンを留めて、ネクタイもきっちり付けている優等生スタイルだ。


国木田花音ちゃんは、あの日のチャラ男と今の俺が同一人物だと思っていない。


「それは…困りましたね。
あたしも個別指導した受けていないから、ここの生徒さんとあんまり仲良くなくて…どんな子ですか?」


どうやら俺の嘘を信じたらしく、花音ちゃんは俺に協力しようとしてくれているらしい。


「えっと…伊藤って男なんだけど、知ってる?」


出てきたのは兄さんの偽名だった。


伊藤って言葉に、花音ちゃんは目を見開く。


「伊藤君?」


「そう、伊藤君。
知ってる?」


「ごめんなさい。
知らないです。
事務室に行ったら、伊藤君のクラスとか分かるかもしれないですけど、案内しますね。」


どうやら花音ちゃんは良い子らしい。


それは分かったが、俺の嘘がバレる可能性があるので止めてもらいたい。


「いいよ、ありがとう。
伊藤にまた会った時に返すから。
それより…君は授業いいの?
今から授業があるんじゃないの?」