屋上の重い扉を開けると、眩しい太陽の光がまぶたに突き刺さる。
 その光に慣らすよう、ゆっくりと目を開けると、落下防止の柵に寄りかかっていた三人が、同時に振り返ってこちらを見た。

 健一先輩と金子先輩、それに先輩方と一緒にバンドを組んでいる同じクラスの近江くんだ。

「お。可愛い後輩が来たな」

 そう言って金子先輩は、思いっきり健一先輩の背中を叩き「邪魔者は帰るぞ」と近江くんを促した。

 屋上を後にするふたりを扉の横で見送ってから、改めて健一先輩を見る。先輩は優しい笑顔で手招きした。それに従って一歩二歩と近付き、すぐそばまで行ってから頭を下げる。

「卒業、おめでとうござます」

「ありがとー」

 いつも通り明るい健一先輩の声を聞いたら途端に安心できた。でもここでようやく、渡そうと思っていたプレゼントを教室に忘れて来たことに気付いた。それから、健一先輩の学ランのボタンが、ほとんどないことも。
 ほとんど、ということは、少しは残っているということで。あるのは校章と学年章、そして第二ボタンだけだ。

「……ボタン、どうしたんですか?」

「んー、友だちとか後輩とかに持って行かれた。梅原は予約済みだからって全部断ってたし、金ちゃんは女子に襲われた恐怖で逃げ回ってたから、代わりにおれが根こそぎ」

「……第二ボタンは、あるんですね」

「これは、予約済みだからって断ったんだ」

 弾けたように顔を上げると、その先に、いつも通り優しそうなたれ目で笑う健一先輩の顔があった。

「……予約、ですか?」

「うん。予約はされてないけど、たぶん泣きながらもらいに来るだろうなーって」