しののめくんといえば、学年でも常にトップクラスの成績で、スポーツ万能で顔も良い。家は病院で、現在医大志望。将来はお医者さんというパーフェクトなひと。

 それに比べてわたしは、成績普通、顔も普通、特技は兄の影響で跳び蹴りと回し蹴りと関節技というろくでもない生徒。東雲慧樹という彼の名前も読めないくらいだ。

 月とスッポン。いや、月とアメーバ。いや、月と残飯くらいの差があるわたしが、しののめくんに怪我を負わせてしまった。これは一大事だ。

 だから彼の気が治るまで、どうにか頑張りたいんだ、けど……。


「はい、しののめくん、いまの授業のノート」

「……」

「見て見て、先生の雑談も、分かりやすいようにイラスト付きで書いてみたよ」

「……」

「……」

 これはまずい。表情から察するに、怒ってらっしゃる。先生の家の飼い犬がまるで「参勤交代」と言っているように鳴いた話なんて書いている暇があるなら、もっと綺麗な文字で書け、とでも言いたげだ。

「すみません……次はもっと頑張ります、はい……」

 しののめくんは何も言わずに、わたしが差し出したルーズリーフ数枚を教科書に挟んだ。

 わたしの苦労も知らずに、山ノ内は「頭が痛いでーす」と言って保健室行き。きっとサボりだ。ずるい! 羨ましい!わたしだってお昼寝したい! ああ、今日は良い天気だし、屋上で寝たら気持ち良いんだろうなちくしょう!


 そんなことを考えても、しののめくんに怪我を負わせてしまったわたしは、普段とは比べものにならないくらい真剣に授業を受け、自分のノートよりずっと綺麗に板書をし、先生の説明も雑談もきちんとメモした。もしかしたら人生で一番の集中だったかもしれない。