「……ほんっと、すいませんでした! 全ては山ノ内のバカが仕出かしたことで、」

「てめっ、小野寺! おまえの飛び蹴りのせいだろうが!」

「あんたがわたしのドラゴンプリンメロンパン食べたせいでしょ!」

「大体なんで女のくせに跳び蹴りできんだよ」

「わたしお兄ちゃんがふたりいて、昔からプロレス技かけられてたんだよね」

「あー、やんちゃな兄貴がいるとなあ」

「そうなんだよねえ、身を守るためにはこっちも技身に付けないと」

「でもスカートで跳び蹴りすんな。もっと女らしくしろ」

「うるさいバカ山ノ内、わたしのドラゴンプリンメロンパン返せ、泥棒め」


 保健室のベッドの上。山ノ内とわたしの必死の謝罪を、しののめくんは無言で睨みつけていた。
 まずい、これは怒っている。大激怒だ。

 そりゃあそうだ。左足首と右手首の捻挫と、あちこちの打撲。怒らないわけがない。
 そして一緒に落ちたはずの山ノ内は無傷でぴんぴんしているところを見たら、怒りに拍車をかけてしまうだろう。


「あのー……しののめくん、痛いよね、ごめんなさい。お詫びはちゃんとするから……」

 本日何度目かの謝罪をしても、しののめくんは無言。そうしたら山ノ内が「てめぇも何とか言えよ、何度も謝ってんだろうが」と言い出すから、やつの腕を掴んで必死に止めた。謝る態度ではないし、これ以上しののめくんを怒らせるわけにはいかない。


「……で?」

 ようやく。しののめくんが口を開く。

「あんたはお詫びに何してくれるって?」

「え?」

 ニヒル。高校生がこんなニヒルな笑みを浮かべられるのか、と真剣に悩むくらいニヒルな顔をして、しののめくんは真っ直ぐわたしを見た。

「え、ええとー……」

「全治三週間。利き腕怪我して不便なんだけど」

「あ、あー……じゃあ、お弁当とか作ったり、授業のノート取ったり……」

「それだけ?」

「ええと、じゃあ体育のときの着替えも手伝う」

「体育はしばらく見学だよな」

「トイレ! トイレも手伝う! 頑張る!」

「へぇ……」

「おい、東雲! おまえちょっと図々しいんじゃねぇのか?」

 山ノ内がしののめくんに掴みかかりそうな勢いで言った。でもしののめくんはまたもニヒルな笑みを浮かべて「じゃあ山ノ内が俺の世話をしろ」と言い放つ。

「……、……、……小野寺、しっかり尽くせよ」

 そして山ノ内はさらっと裏切り、わたしの肩をぽんと撫で、踵を返したのだった。
 ドラゴンプリンメロンパンのことといい、わたしは山ノ内を絶対に許さないと誓った。