「和泉」
「……うん」
「わたし、勘違いしてた」
「……なにを?」
「和泉は背も高いし顔も良いしバレー部ではエースだし。中身はちょっと残念だったとしても、この先女の子に困ることはないんだろうなって。特に全国なんか行っちゃったら、隠れファンどころじゃなく、堂々としたファンがたくさんできるかも」
「そんなこと……」
「ただし中身をちょっと何とかすればね。外見だけは良いから。ほんと」
「確かに中身はあれだけどひどいな!」
顔を上げたひなたちゃんは、笑っていた。
今まで見たこともないような、優しい顔をして。
さっきサッカー部のやつに向けていた表情ともまた違う。本当に柔らかくて、優しい表情。あんまり可愛くて、鳩尾のあたりがぎゅうっと苦しくなった。
「和泉の隠れファンの子たちを敵に回したくはないけど、まあ、いっか」
「……へ?」
「中身が残念でも和泉は和泉だし、一緒にいると楽しいし」
「それって……」
息が。
「付き合いましょう、ってこと」
息が、止まるかと思った。
幸せすぎて。どうにかなってしまうんじゃないかって。
目頭が熱くなって、じわりと視界が滲む。
滲んだ視界には、目を丸くするひなたちゃんがいた。
「え、えっ? なんで泣くの!」
「ないてない……うっ……」
「泣いてるじゃん!」
苦笑しながらハンカチを取り出して、歩み寄ってくるひなたちゃんを、思いっきり抱き締めた。
ひなたちゃんは「え? え?」ってなってたけれど、やっと捕まえたんだ。離してやるもんか。
ふわり、と。ひなたちゃんの髪から柔らかい香りがした。
幸せににおいがあったら、こんな感じなのかな、と思った。
(了)