それをきっかけに、話をする決意をした。

「あの……冷蔵庫のアレ。アレは、ええと……岸先生が入れて行ったもので、決して僕の持ち物というわけでは……」

「……そうやって責任転嫁するのはどうなんでしょう」

「あ、は、はい……すみません……」

「……」

「……」

 ようやく七海さんが口を開いてくれたのは良いけれど、ああ、どうしよう、この距離。なんだかこの小一時間の間に、七海さんとの距離が恐ろしく開いてしまったみたいで……。

 僕らの関係は、こんなんじゃなかったはずだ。もっとちゃんと、見ていたはずだ。お互いのことを。
 そりゃあ僕の片想いかもしれない。けれど……。こんな遠い関係のまま、離れるのは嫌だ。


 ほんの一歩で右隣に並んで、七海さんを見下ろした。
 並んでみて、初めて分かった。ぞくっとするような、冷めた顔をしていた。

 それで決意が萎んでしまわないよう拳を握り、息を吸いこむ。


「き、岸先生のせいにしたのは、ごめんなさい。というか本当に岸先生が入れて行ったものらしいのですが……」

 七海さんがキッとこちらを睨み上げたけれど、勇気を振り絞って続ける。

「最近、寝ても覚めても……なんだかひとつのことしか考えられなくて。しかもそれは、すごく、異常なことなんです……。それは世間から見たらとても異常なんですが、でも人間の本能で見ても良いのだとしたら、普通のことなのかもしれません……」

「……よく分かりません、はっきり言ってください」

 言うべきか言わないべきか。悩みながら紡いだ言葉はとても回りくどくて。七海さんを苛立たせたのか、小さなため息をつかれてしまった。

「……引かないでくださいね」

「引くようなことなんですか?」

「それは、七海さん次第です……」

「はあ」

「……僕は、七海さんが、好きです」