七海さんがまだ校内にいるなんて、そんな確証はなかった。
でも、いるような。例えば屋上で風に打たれながら、僕の馬鹿さを呆れているような……。そんな気がして、屋上への階段を上った。
階段を上りきった先にある、分厚くて重い扉を押し開けると、だいだい色の光が瞼を刺し、その痛さに目を瞑る。
数秒で痛みが和らぎ、瞬きをすると、見慣れた後ろ姿があった。
「……七海さん」
名前を呼ぶと、彼女の肩がぴくりと震えた。
返事はないし、振り返りもしない。それだけで心が折れかけて、踵を返そうと思ったけれど……。ぐっと堪えて一歩踏み出す。
「……隣、良いですか?」
落下防止の柵に腕を置き、グラウンドを見つめる七海さんは、やっぱり答えてはくれない。
きっと隣にいてはいけないんだと思って、斜め後ろに立ってみた。
斜め後ろからじゃ、七海さんの顔は見えない。
それがなんだか、縮まらない七海さんと僕の関係のようで、もどかしい。
「……七海さん、寒くないですか?」
「……」
「……何を、見てるんです?」
「……」
「七海さんの目には、何が映っていますか?」
「……」
何を聞いても、答えてはくれない。返事がなさすぎて、七海さんの声を忘れてしまいそうだ。
そんなことを考えていたら、やけに冷たい風が吹いて、七海さんの髪を揺らした。風に乗って、甘い香りが僕の周りに漂った。