長椅子でがっくり項垂れていると、呼んでもいない来訪者が「宇佐美くんヘールプ!」と。真っ青な顔のわりに大きな声で、騒々しくやって来た。

「宇佐美くん、いや宇佐美先生、いやさ宇佐美様、腹痛に効く薬あるかな、あるよね?」

 英語の岸先生だった。お腹が痛いらしく、腰を曲げて、足取りもおぼつかない。

「やっぱり賞味期限切れてたのかなあ……。おかしいと思ったんだ、戸神が突然パンくれるなんて……。あの食べ盛りがパンくれるなんて、疑うべきだったんだよな……」

 どしゃっと長椅子に倒れ込む岸先生を避けて、棚から腹痛薬を出してあげる。

 それを景気良く飲み込んだ岸先生は、思い出したようにこんなことを言った。

「そうだ、気付いた? オレからのプレゼント」

「プレゼント? 何のことですか?」

「アレだよアレ、冷蔵庫のゴム。彼女と使おうと思って買ったんだけど、まだ早いって思いっきり拒否されたから、宇佐美くんにあげるよ」

「……」

 アレはあなたの仕業ですか……!

「あっ、あ、アレのせいで、僕は、僕は……軽蔑されたんですよ……!」

「軽蔑? 誰に?」

「うっ……」

 七海さんに、なんて言えない。言えるわけがない。七海さんは生徒で、僕はこの学校の養護教諭だ。

 異常なのかもしれない。生徒に本気で恋をするなんて……。
 常識知らずの僕に、神様が「駄目だよー」と言っているのかもしれない。