「ねえ、宇佐美先生……」

「あぇっ!?」

 お茶を煎れている最中突然名前を呼ばれ、びっくりして振り返ると、しゃがみながら冷蔵庫を覗く七海さんの背中が見えた。

「なんです?」

「……」

 七海さんの後ろから冷蔵庫を覗き込むと、言葉を失った。

「……」

「……」

「……これは、なんでしょうか……」

「……いや、わたしが聞きたいんですけど……」

 冷蔵庫の中にあったのは、飲み物の他に、液剤や水薬、そして明らかに身に覚えのない物。

 こんっ、こんどっ、こ……赤ちゃんができないようにするアレ……!

 いやいや! 違うよ! 僕が入れたんじゃないよ! いくら養護教諭だからって、保健室にこんなもの常備するわけがない! 生徒の体調管理だけじゃなく、性指導もするなんて、どれだけ親切な保健室なんだ! 

 これがいつ、どのタイミングで冷蔵庫に入ったのかは分からないけれど、それをよりによって七海さんに見られるなんて……!


「……箱が開いてる。使いかけなんですね……」

「ちっ、違いますよ? 僕のじゃないですよっ?」

「……まあ、宇佐美先生が保健室のベッドでナニをしようが、わたしには関係ないですけど……」

 ご、誤解している……! 全力で誤解されている!
 しないから! 保健室のベッドでナニもしないから! だから七海さん、そんな汚いものを見るような目で見上げないでっ……!

「……じゃあ、帰りますね」

「ちょっ、七海さん……!」

 軽蔑の眼差しのまま七海さんは、踵を返してすたすたと保健室を出て行ってしまった。
 七海さんとの貴重な放課後の時間が、こんなことで駄目になってしまうなんて……。