「……ごっ、ごめんな! 気持ち悪いよな、先生のくせにさ!」

 静けさに耐えられなくなって、笑いながら自分で自分をフォローした。

 そして「この話はこれでおしまい!」と茶化すように言って立ち上がり、お茶でも煎れようと棚をいじる。……と。


「……和真、さん」

 背後で、榛名の声がした。

「……へ?」

 でもその声は……呼び方は……いつもと違っていて……。今、和真さん、って……。
 振り向こうとしたけれど、なんだか怖くって、やめた。

 背後の榛名は小刻みに息を吐いて、まるで笑っているよう。

 否、笑っている。振り向かなくても分かる。絶対に笑っている。


「……榛名?」

 発した声は、掠れていた。


「面白いね、和真さんって」

「おも、面白い……?」

「面白い。だって話を切り出してから、終始声震えてるんですもん」

 えっ、オレ声震えてた!? 全然気付かなかった。だせぇ。超だせぇ。

 どうしても赤面を見られたくなくて、俯きながら急須と湯呑をいじる。

 そうしたら急に「好きだよ、和真さん」と。背後から、そんな言葉が聞こえた。いつも通りのこの台詞。もはや榛名の代名詞とも言えるこの台詞。

 でも違う。榛名はわざと呼び方を変えた。「岸先生」から「和真さん」に。だからこれは、先生としてではなく、オレが――岸和真が好きだという意味だ、と。解釈しても、良いのだろうか……?


「気持ち悪くなんてないよ」

 パチ、パチ、と、またホッチキスの音が再開された。

「むしろ、気持ち良い……? ん、あれ? 気持ちいい? なんか違うな、ええと……心地良い、とかかな」

 湯呑を、落とすかと思った。

 手が震えて、足も震えて……。振り向きたいんだけれど、きっと今オレは物凄く変な顔をしているから……。