「まあ、座って」
英語科準備室。長机と、そこに向かうために置かれたパイプ椅子。
榛名はそのパイプ椅子に座って、長机に置かれたプリントの山を見た。
「……まさか、このプリント、全部やれなんて言わないですよね……」
「言わないよ。はい」
安堵の表情をした榛名にホッチキスを渡すと、オレもパイプ椅子に座った。
少しだけ距離を置いて、榛名の隣に。
「次の学年集会の資料。オレと佐藤先生が係だったんだけど、佐藤先生がっつり部活に出てるから、オレが引き受けた」
「いや、生徒に手伝わせるなら、引き受けたうちに入りませんよね」
「まあまあ。授業中ずっと外見てた罰として、手伝ってよ」
「まあ、数百枚のプリントの問題を解けって言われるよりずっと良いですけど」
榛名が柔らかく笑って、オレもつられて笑って、プリントを手に取った。
グラウンドから、サッカー部が土を踏みしめる音がする。
野球部が、金属バットで硬球を打つ音がする。
外で部活をしている生徒たちの賑やかな声が聞こえる。吹奏楽部が奏でる楽器の音も。
その間を縫うように、パチパチと、ホッチキスで紙を留める音が響く。
榛名とオレはこれといった会話もなく、ただ黙々と作業を進める。
プリントの山が半分ほどになったとき。榛名が「針切れた」と呟いて、ホッチキスの針が入った小箱に手を伸ばした。
ふたつあったホッチキスの音はひとつになって、オレが手を止めると、全ての音がやんだ。
どうやら運動部の練習も終わったらしい。ああ、バレー部に顔を出せなかった……。



