榛名は本当に来てくれるのか。どきどきしながら迎えた放課後。
 職員室で、小テストの採点をしながら榛名を待つ。

 ああ、時間指定をしておくんだった。帰りのホームルームが終わった時点から放課後で、そこからずっと放課後だ。外部からコーチを呼んでいるとはいえ、顧問として部活に顔も出したい。夜に来たらどうしよう……。

 いや、大丈夫。呼び出したのに何時間も来ないような非常識な娘さんじゃない。はず……。オレの授業はサボりがちだけれど……。きっと来てくれる、はず……。もうすぐ陽が暮れそうだけれど、いや、常識のある子のはず……。

 腕時計と、職員室の壁掛け時計、携帯のディスプレイを順番に見て、何度も時刻を確認して……。
 小テストの採点が終わり、男子バレー部の練習試合の予定を確認し、学校所有のバスの貸し出し申請書を書き、明日行う小テストの印刷をしても、榛名はまだ来ない。……。


 ああっ、もう! 呼び出されてるんだから、しかも忙しいって自分で言ったんだから、早く来てよ!

 印刷したばかりの小テストを束ねて立ち上がり、職員室の扉を開ける。と……。

「えっ?」

「……あ」

 夕暮れが迫った職員室前の廊下に、榛名が、しゃがんでいた。


「……いつから、いた?」

 聞くと榛名は立ち上がって、窓の外に見える中庭の大時計に目をやった。

「……三時半くらい」

「もう六時だけど……」

「時計を見れば分かります」

 何時間もこんなところにしゃがんで、一体何をしているのか……。

 怒る気もなくして、ただ力無く笑って、榛名を英語科準備室まで連れて行った。