週明け、月曜日。五時限目、英語の授業。
「はい、じゃあここ誰かに訳してもらおうかな」
ちらりと、榛名を見た。
窓際の席の榛名は、授業なんて全く聞く気がないようで、さっきからずっと頬杖をついて窓の外を眺めている。
「じゃあ――……」
榛名。そう言いたかった、のに……。
「七峰、訳してみて」
結局指名することができなかった。なんて情けないんだ。
だってきっと、榛名の「好き」は違うんだ。「先生」としての好きであって「男」としてのそれじゃないはずだ。
だからオレがもしあのとき「先生」としてではなく「一人の男」として「好き」だと言ってしまっていたら。気持ちを伝えてしまっていたら。きっと良い意味でも悪い意味でも、今までの関係には戻れないと思うから……。
「……岸先生?」
「えっ?」
「訳しましたけど……」
やべぇ、全く聞いていなかった……! 七峰ごめん! 可愛いうちの男子バレー部副主将ごめん!
「あー……ええと、じゃあ進むよー」
「いや、今俺の訳聞いてなかったですよね」
「そ、そんなことないよ! 聞いてたよ! 完璧な訳だったね!」
「いや、嘘ですよね」
みんなが笑って、オレも笑うふりをしながら、もう一度榛名を見たけれど……。榛名はまだ窓の外を眺めていた。
結局、榛名は授業中、一度も前を見なかった。
「は、榛名! 放課後職員室に来なさい!」
チャイムのあと、意を決してそう言うと、榛名は「えーっ」といつもの調子で拒否をした。
「えー、じゃない! 今の授業全く聞いてなかったでしょ!」
「聞いてましたよ!」
「じゃあ七峰が何て訳したか言ってみて!」
「……」
「いいから、放課後オレんとこ来て」
少し真面目なトーンで言うと、榛名は目を細めて睨むような顔をした。
「忙しいので、一分で終わらせてください」
一分じゃ、どんなに急いでも無理! 無理だけど「善処します!」と歩み寄るしかなかった。



