「ば、馬鹿言うなって! 先生だって、まだ仕事続けたいからね」

 気持ちを抑えて、どうにかこうにかそう答えた。

「わたしが先生の彼女になったら、先生は仕事を辞めなきゃいけないんですか?」

「そりゃあ、先生と生徒だからね」

「先生と生徒が付き合っちゃいけないって、誰が決めたんですか?」

「うーん……PTAとか、政治家とか。偉い人かなぁ?」

「ああ、じゃあ駄目ですねぇ!」

 途端に榛名はへらへら笑い、グラスに残っていたオレンジジュースを飲み干した。

 あ、ああ、びっくりした。さっきから榛名の表情が、授業中でも見ないくらい真面目なものだったから、笑ってくれて良かった。いつもの顔に戻ってくれて本当に良かった。


「じゃあ、岸先生とわたしは、付き合えないってことですね」

「そうなるね」

「なーんだ、残念」

「先生を良い気分にさせても、点数も単位もあげないからね」

「だからいりませんってば。寂しいアラサー教師の心の隙間を埋めてあげようと思っただけです」

「まあ、先生にも選ぶ権利はあるし」

「……」

「……?」

 今の今まで楽しく会話をしていたのに、またこの真面目な表情。
 なんだ? どうしたんだ、榛名は。