生徒に、本気で恋をした。
去年、榛名のクラスの授業を担当してから気になり始めた。最初は勘違いだと思っていたけれど、今年担任になってからは、この想いが本物だったと気付いた。
オレはホームルームのたび、授業のたびに榛名を好きになった。
だけど担任として、優先すべきはオレの淡い恋心より、生徒の進路。このままじゃあ榛名は英語の単位を落として、卒業できなくなってしまう。先生と生徒じゃなくなったら気持ちを伝えたいと思っているのに、卒業できないんじゃあそれが延びてしまう。だからどうしても、卒業させなくてはならないのだ。
「じゃあ土曜日にここで補習授業しよう」
この提案に、榛名はさらに顔をしかめて「土曜日も学校来るのは嫌です」と……。とてもはっきりしている。
項垂れるオレを見て、榛名はくすっと笑うと、こんな提案をした。
「ああ、でも。先生の部屋で勉強会ならいいですよ」
「え?」
「先生の家って隣町ですよね。わたしも隣町に住んでいるので、学校に来るより近いです」
「え?」
今日も彼女は、オレを惑わす。
榛名にとってこの提案は「学校より近い」「一人で問題を解くのは無理」ということなんだろうけど。
榛名に想いを寄せるオレは、やましい気持ちがちらつく。
これは進んではいけない想いだけれど……。先生と生徒だけれど……。好きだからこそ、榛名の提案は、できる限り飲んであげたい、なんて……。