「明音さん」

「はい……」

「好きですよ」

「……はい?」

「好きです、あなたが」

「は、はあ……はい、え? どういうこと?」

「言ってなかったなと思って」

 そういえば言われていなかった。告白の返事は「いいですよ」だったし。

 いや、でも、そうじゃなくて……。


「別れ話は?」

「別れ話? なんですか急に。別れたいんですか?」

「いや、ぜんぜん!」

「よかった」

「あー、うん……」

 拍子抜け。別れ話かと思いきや、告白された。広瀬くんから。そんなこと言わなそうな広瀬くんから。好きですと言われたら。ほっとしたやら嬉しいやらで力が抜けて、ベッドに倒れ込む。

「明音さん」

「はい」

「試合も近いし、デートとかはあまりできないと思いますが」

「うん、いいよ、平気」

「でも、一緒に帰ったり、弁当食ったりはできるので」

「え?」

「明日、昼、一緒にメシ食いませんか」

 こんなに……。こんなに幸せなことがあっていいのだろうか……。

 無性に泣きたくなったけれど、ぐっと堪えて「いいよ」と返事をした。

「それから」

「うん」

「明日、会ったら、明音さんにキスをしてもいいですか?」

「へ、へぇっ?」

「我慢してたので、します」

「……お、おうふ……」

 広瀬くんの話が別れ話じゃなくても、鼓動はおさまらない。から、わたしはやっぱり早死にするかもしれない。

「た、た、楽しみにしてます……」

「はい、じゃあ、また明日」

「お、やすみ、なさい」

「おやすみなさい」


 電話が切れても、わたしは携帯を耳に当てたまま、しばらく動けないでいた。


 こんなに……。こんなにこんなにこんなに。明日が待ち遠しいと思ったのは初めてだった。








(了)