長いコールのあと「はい」と広瀬くんの声。ああ、広瀬くんの声だ。かっこいい。相変わらずテンションが低い。
「あ、こ、こんばんは」
「こんばんは」
「ひ、広瀬くん、何してた?」
「週末課題を解いていました」
「……もう火曜だよ?」
「ついうっかり」
「珍しい。広瀬くんしっかりしてそうなのに」
「そんなことないんですが……明音さん」
「はい?」
「用件は?」
「へ?」
声が聞けて、幸せな気分に浸っていたら、いきなり現実に引き戻された。
「あー……ええと、広瀬くん何やってるかなーって思って」
「はあ」
「声が……聞きたくなって」
「つまり、用件は特にないってことですよね」
「……はい、そうです」
不穏な空気。思わずベッドの上に正座した。
つい数秒前から一転。悲しい気分になった。
「用件がないなら、もういいですか?」
「……」
「明音さん?」
「……用がなきゃ」
「用がなきゃ……電話もしちゃだめなの?」
「え?」
切った。返事を聞かずに終話ボタンを押して、携帯を投げ捨てた。